拡大コピーをしに行く前に
昨夜、夢を見た。
最初に就職した会社の、当時の直属の上司が出てきた。
なぜか、その人の会社で私がアルバイトをすることになった。
時給は1700円。
なんだそれ。安い。
どうして今、その人が夢に出てきたのだろう。
しかも、どうして仕事の話だったのだろう。
朝起きてから、少し考えていた。
その人は、とても厳しい人だった。
当時の私はまだ若く、仕事のこともよくわかっていなかった。
でも今になって思うと、私の仕事の考え方のベースは、その人に教えてもらった気がしている。
35年ほど前のことだ。
ある日、回路図からクリティカルパスを探す、という仕事をすることになった。
いま聞いても難しそうだ。
当時の私にわかるはずがない。
上司は、やり方を説明してくれた。
でも、私はほとんど理解できなかった。
ただ、ひとつだけ私にもわかることがあった。
「必要だったら、西武(百貨店)で拡大コピーしてくればいい」
そこだけ覚えていた。そこだけ理解できた。
回路図を見る。
よくわからない。
また見る。
やっぱりわからない。
そんなことを2、3日やっていたと思う。
何も進まない。
でも、机には向かっている。
仕事をしているような顔はしているが、内心は焦っている。
そして、私は上司に言った。
「西武で拡大コピーしてこようと思います」
たぶん、その瞬間にすべて見抜かれた。
そこから、説教が始まった。
「2階会議室へ来て」
いつも2階会議室で半日くらい説明(お説教)をしてもらう。
今回の仕事で大事なのは、拡大コピーをすることではない。
クリティカルパスを探すことだ。
図面が見づらくて、クリティカルパスを追うために必要なら、拡大コピーをすればいい。
でも、私の場合はその前で止まっていた。
何を探すのか。
どこを見ればいいのか。
何が大事なのか。
そこがわかっていないのに、できることは拡大コピーをすることだけだった。
完全に、作業に逃げようとしていた。
そのとき、上司は「本質」という言葉を何度か使った。
本質を見ること。
本質を間違えないこと。
作業をしている気分になることと、仕事が進んでいることは違う。
当時は、かなりきつかった。
でも、その言葉は残った。
本質。
いま思えば、仕事をしていると、こういうことはよくある。
資料を整える。
ファイル名を直す。
道具を揃える。
見た目を少し整える。
とりあえず拡大コピーする。
もちろん、それが必要なこともある。
でも、その前に見るべきものがある。
今回の仕事で、本当に大事なことは何か。
何を見つけなければならないのか。
どこを間違えると、全部がずれてしまうのか。
そこを見ないまま動いても、仕事をしている気分にはなれる。
でも、たぶん前には進んでいないし、ずれている。
この感覚は、今の仕事にもずっと残っている。
文章を書くときも、サイトを作るときも、何かを企画するときも、まず考える。
これは何のためにあるのか。
誰に、何を伝えたいのか。
この仕事の中心はどこにあるのか。
そこを外すと、どれだけ見た目を整えても、どこか違うものになる。
powderfulのサイトを作り直している今も、たぶん同じことをしている。
会社概要を書く。
日記の話を書く。
走ることを書く。
ニセコのことを書く。
パーゴラのことを書く。
初孫のことまで書く。
普通の会社サイトとして見ると、少し変だと思う。
何を仕事にしたいのか。
何を残したいのか。
どこへ移動したいのか。
何を面白がっているのか。
まだはっきりとは見えていない。
でも、そこを探している。
昨夜、夢に昔の上司が出てきた。
時給1700円でアルバイトをするという、よくわからない夢だった。
でも朝になって思った。
あれはたぶん、もう一度言われたのだ。
拡大コピーをしに行く前に、まず本質を見ろ。
35年前に言われたことを、今また思い出している。
